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弓八幡(ゆみやわた)

【分類】初番目物(脇能)

【作者】世阿弥

【登場人物】 

登 場 人 物 装  束

シテ(前)

老翁 小尉 尉髪、小格子、大口、水衣、腰帯、中啓、弓袋

シテ(後)

高良の神 邯鄲男 厚板、大口、狩衣、白鉢巻、黒垂、透冠、腰帯、中啓
ツレ

直面

熨斗目、縷水衣、腰帯、中啓
ワキ 臣下   厚板、大口、狩衣、腰帯、大臣烏帽子、調度掛、中啓
ワキツレ 従者二人   ワキと同じ
間狂言 八幡山下の者   縞熨斗目、長上下、小サ刀、扇

【あらすじ】(舞囃子の部分は下線部です。キリの部分は斜体、クセの部分は上線部です。  

【主人公】前シテ:老翁、後シテ:高良ノ神

【あらすじ】(舞囃子の部分は斜体の部分です。仕舞の部分は下線部です。)

後宇多院に仕える臣下が、如月初卯の男山八幡宮(石清水八幡宮)の如月初卯の神事に陪従として参詣するよう命じられ、八幡宮に向います。やがて八幡宮に着き、参詣しようとすると、一人の男を伴い、錦の袋に納めた弓を持った老翁がいます。不思議に思って尋ねると、老翁は「私は長年この八幡宮に仕えているもので、桑の弓を君に捧げようと思い、あなたを待っていたのです」と答えます。そして、桑の弓を袋に納めたまま君に捧げるいわれなどを詳しく語ります。さらに、八幡宮のいわれを語り、実は自分は高良の神で、君を守るためにここに現れたと言い、かき消すように消えてしまいます。 

<中入>

 臣下が神託を伝えるため、都に帰ろうとすると、どこからか音楽が聞こえ、良い香が薫じてきます。するとそこへ、高良の神がその姿を現し、舞を舞い、御代を祝い、八幡宮の神徳を讃えます。

【詞章】(舞囃子の部分は斜体の部分です。仕舞の部分は下線部です。)

ワキ、ワキツレ二人(次第)「御代も栄ゆく男山。御代も栄ゆく男山。名高き神に参らん。
ワキ「そもそもこれは後宇多の院に仕え奉る臣下なり。さても頃は二月初卯八幡の御神事なり。郢曲のみちなれば。陪従の参詣仕れとの宣旨を蒙り。唯今八幡に下向仕り候。

ワキ、ワキツレ二人「四の海波静かなる.時なれや。
ワキツレ二人「波静かなる時なれや。
ワキ、ワキツレ二人「八洲の雲もおさまりて。げに九重の道すがら。往来の旅も.豊かにて。めぐる日影も南なる。八幡山にもつきにけり.八幡山にもつきにけり。
ワキ「急ぎ候ふほどにこれは早や。八幡山につきて候。心静かに神拝を申さうずるにて候。
シテ、ツレ「神まつる。日も二月の今日とてや。のどけき春の。朝ぼらけ。
ツレ「花の都の空なれや。
シテ、ツレ「雲もおさまり。風もなし。君が代は千世に八千代にさざれ石の。巌となりて苔のむす。松の葉色も常磐山。緑の空ものどかなる。春の日影はあまねくて。君安全に民厚く関の戸ざしもささざりき。もとよりも君を守りの神国に。わきて誓いもすめる世の。月かげろうの石清水たえぬ流れの末までも。生けるを放つ大悲の光。げにありがたき。例かな。神と君と道すぐにあゆみを運ぶこの山の。松高き枝もつらなる.鳩の峯。
ツレ「枝も連なる鳩の峯。
シテ、ツレ「くもらぬ御代は久方の。月の桂の男山げにもさやけき影に来て。君万才と祈るなる。神に歩みを運ぶなり.神に歩みを.運ぶなり。
ワキ「今日は当社の御神事とて。参詣の人人多き中に。これなる翁の錦の袋に入れて持ちたるは弓と見えたり。そもいずくより参詣の人ぞ。
シテ「これは当社に年久しく仕え申し。君安全と祈り申す者なり。又これに持ちたるは桑の弓なり。身の及びなければ直奏申す事かなわず。今日御参詣を待ち得申し。君へ捧げ物と申しあげ候。
ワキ「ありがたし有難し。まずまずめでたき題目なり。さてその弓を奏せよとは。私に思いよりけるか。もし又当社の御神託か。わきて謂れを申すべし。
シテ「今日当社御参詣に。桑弓を捧げ申すこと。これこそ則ち神慮なれ。
ツレ「その上聞けば千早ふる。
シテ、ツレ「神の御代には桑の弓。蓬の矢にて世を治めしは。すぐなる御代のためしなれ。よくよく奏し。給えとよ。
ワキ「げにげにこれは泰平の。御代のしるしは顕れたり。まずその弓を取りいだし。神前にて拝見申さばや。
シテ「いやいや弓をとりいだしては。何の御用のあるべきぞ。
ツレ「昔もろこし周の代を。治めし國の始めには。
シテ「弓箭をつつみ干戈をおさめし例をもつて。
ツレ「弓を袋に入れ。
シテ「劔を箱におさむるこそ。
ツレ「泰平の御代のしるしなれ。
シテ、ツレ「それは周の代.これは本朝。名にも扶桑の。國を引けば。
地謡「桑の弓とるや蓬の.八幡山。取るや蓬の八幡山。誓いの海は豊かにて。君は船。臣は瑞穂の國國も残りなくなびく草木の。恵みも色もあらたなる。御神託ぞめでたき神託ぞめでたかりける。
ワキ「なおなお弓箭を以って天下を治めし謂れねんごろに申され候え。
地謡「そもそも弓箭をもって代を治めし始めといっぱ。人皇の御代はじりても。則ち当社の。御神力なり。
シテ「しかるに神功皇后。三韓をしたがえ給いしより。
地謡「同じく応神天皇の御聖運。御在位も久しく國富み民も。豊かに治まる天が下。今に絶えせぬ。例とかや。上雲上の月卿より。下萬民に至るまで樂しみの声つきもせず。しかりとは申せども。君を守りの御恵み。なおも深き故により。欽明.天皇の御宇かとよ。豊前の國。宇佐の郡。蓮台寺の麓に。八幡宮と現れ。八重旗雲をしるべにて。洛陽の。南の山高み。曇らぬ御代を守らんとて。石清水いさぎよき霊社と現じ.給えり。されば神功皇后も。異国退治の御ために。九州。四王寺の峯において。七か日の御神拝。例も今は久かたの。天の岩戸の神あそび。群れいて謡うや榊葉の。青和幣白和幣とりどりなりし神霊を。
シテ「遷すや神代の跡すぐに。
地謡「今も道あるまつりごと。あまねしや神籬の。おがたまの木の枝に。金の鈴を結びつけて千早ふる神遊び。七日七夜の御神樂。まことに天も納受し。地神も。感應の海山治まる御代に立ち帰り。国土を守り給うなる。八幡三所の神徳ぞめでたかりける。げにや誓いも.影高き。げにや誓いも影高き。この二月の神祭りかかる神慮ぞありがたき。
シテ「ありがたき千世の御声を松風の。ふけ行く月の夜神樂を。奏して君を祈らん。
地謡「いのる願いも瑞籬の。久しき代より仕へてし。
シテ、ツレ「われはまことは代代を経て。今この年になるまでも。
地謡「生けるを放つ。高良の神とはわれなるが。この御代を守らんと。唯今ここに来たりたり。八幡大菩薩の。御神託ぞ疑うなとてかき消すように.うせにけりかき消すやうに.失せにけり。

<中入>

ワキ、ワキツレ二人「都に帰り.神勅を。
ワキツレ二人「都に帰り神勅を。
ワキ、ワキツレ二人「ことごとく奏しあぐべしと。言えばお山も音樂の。聞こえて異香薫ずなる。げにあらたなる奇特かなげにあらたなる.奇特かな。
シテ「あら有難やもとよりも。人の国よりわが国。他の人よりはわが人と。誓いの末もあきらけき。真如実相の月弓の。八百万代に末までも。動かず絶えず君守る。高良の神とは.わが事なり。
地謡「二月の。初卯の神楽おもしろや。
シテ「うたえや謡え。日影さすまで。
地謡「そでの白木綿かえすがえすも。千代の声ごえ。謡うとかや。

<神舞>

地謡「げにや末世と.言いながら。げにや末世と言いながら。神の誓いはいやましに。かくあらたなる御相好。拝むぞたっとかりける。
シテ「君を守りの御誓い。もとより定めある上に。殊にこの君の神徳。天下一統と守るなり。
地謡「げにげに神代今の代の。しるしの箱の明らかに。
シテ「この山上に宮居せし。
地謡「神の昔は。
シテ「ひさかたの。
地謡「月の桂の男山。さやけき影は所から。畜類鳥類鳩吹く松の風までも。皆神体と現れ.げにたのもしき神ごころ。示現大菩薩八幡の.神徳ぞ豊かなりける。神徳ぞ豊か.なりける。

 

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