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遊行柳(ゆぎょうやなぎ)

【分類】三番目物(鬘物)

【作者】観世小次郎信光

【主人公】前シテ:老翁、後シテ:老柳の精

【あらすじ】(仕舞の部分は下線部です。

一遍上人の教えを全国に広めようとしている諸国遊行の僧が、上総国(千葉県)から奥州へと旅します。白河の関を越えて、新道を行こうとすると老人が現れ、声をかけます。老人は、先代の遊行上人が通ったのは、その新道ではなく、古道と呼んでいる昔の道だといい、またそこには朽木の柳という名木があると教えます。そして、僧をそちらへ案内します。もう今はあまり人の通わなくなり、草の生い茂った古道をついて行くと、古塚の上に柳の老木があります。僧がこの柳のいわれを尋ねると、老人は昔、西行がこの地へ旅し、「道のべに 清水流るる 柳かげ しばしとてこそ 立ちどまりつれ」という歌を詠んだことを教えます。そして、僧に求めて十遍の念仏を授かると、古塚に姿を消してしまいます。

≪中入≫

僧は通りかかった土地の者からも、朽木の柳のいわれを聞き、先程の老人の話をしますと、土地の者は驚いて、再度、奇特を見るように勧めます。その夜、古塚のそばで、僧が念仏を唱え、仮寝をしていると、柳の精が白髪の老翁姿で現れます。そして、夕刻、ここに案内した者だと明かし、草木の霊まで成仏することのできる念仏の功徳をたたえます。さらに柳にちなむ和漢の故事をひき、楊柳観音や蹴鞠のこと、さらに「源氏物語」の柏木の恋の話へと次々と話題を広げてゆき、十遍の念仏への報謝の舞を心静かに舞って見せます。僧が夜明けの風に目覚めると、そこには朽木の柳が立っているだけした。

【詞章】(仕舞の部分の抜粋です。)

そのかみ洛陽や。清水寺のいにしえ。五色に見えし瀧波を。尋ねのぼりし水上に。金色の光さす。朽木の柳たちまちに。楊柳観音とあらわれ。今に絶えせぬ跡とめて。利生あらたなる。歩を運ぶ霊地なり。されば都の花盛り。大宮人の御遊にも。蹴鞠の庭の面。四本の木蔭枝たれて。暮に数ある沓の音。柳桜をこきまぜて。錦をかざる諸人の。花やかなるや小簾の隙洩りくる風の匂いより。手飼の虎の引綱も。ながき思いに楢の葉の。その柏木の及びなき。恋路もよしなしや。これは老いたる柳色の。狩衣も風折も。風にただよう足もとの。弱きもよしや老木の柳。気力なうしてよわよわと。立ち舞うも夢人を。現と見るぞはかなき。

 

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