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善知鳥(うとう)
【分類】四番目物 (雑能)
【作者】世阿弥
【主人公】前シテ:老人、後シテ:猟師の亡霊
【あらすじ】(仕舞の部分は下線部です。)
諸国一見の僧が、陸奥国(青森県)外の浜への行脚を志し、途中、越中国(富山県)立山に立ち寄り、目のあたりに地獄の光景を見て感慨を催し下山します。すると一人の老人が呼びかけて、外の浜へ下ったら、去年の秋に死んだ猟師の宿があるから、その妻子を訪ね、そこにある蓑笠を手向けてくれるように頼み、その証拠にと、自分の着ていた麻衣の片袖を引きちぎって渡します。
<中入>
片袖を持って旅僧は奥州へ下り、外の浜に着くと、土地の者に猟師の家を尋ねます。教えられた家に赴き、猟師の妻と子供に、立山で会った老人の片袖を渡し、伝言を伝えます。妻は衣を取り出し、それに合せると、まさしく亡き人の形見とぴったり合います。そこで妻子はおどろき懐しみつつ、蓑笠を手向け、僧と共に回向します。すると、猟師の亡霊が現れ、生前多くの鳥獣を殺した重い罪科を仏の力で消滅させてくれるように頼みます。妻子は猟師の姿を見て泣くばかりです。猟師が我が子に近寄り髪を撫でようとすると、雲霧に妨げられて子供の姿が見えなくなります。猟師は生前の殺生を悔い、善知鳥を捕える時の様子を物語り、その報いで今は地獄に落ちて苛責を受けていると様を見せ、この苦しみを助けてほしいと言ったかと思うと、消え失せます。
【詞章】(仕舞の部分の抜粋です。)
親は空にて血の涙を。親は空にて血の涙を。降らせば濡れじと菅簑や。笠を傾けここかしこの。便りを求めて隠れ笠。隠れ簑にもあらざれば。なお降り掛かる血の涙の。目も紅に染み渡るは。紅葉の橋の。かささぎか。娑婆にては.善知鳥やすかたと見えしも。冥途にしては化鳥となり.罪人を追っ立て鉄の。嘴を鳴らし羽を叩き。銅の爪を.研ぎ立てては。眼を掴んでししむらを.叫ばんとすれども猛火の煙に.むせんで声を.上げ得ぬは.鴛鴦を殺しし咎やらん。逃げんとすれど.立ち得ぬは。羽抜け鳥の報いか。善知鳥はかえって鷹となり。我は雉とぞなりたりける。のがれ交野の狩り場の吹雪に.空も恐ろし地を走る。犬鷹に責められて。あら心うとうやすかたやすき隙なき身のくるしみを。助けて賜べや御僧。助けて賜べや御僧と.いうかと思えば.失せにけり。