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鵜飼(うかい)

【分類】五番目物 (切能)

【作者】榎並ノ左衛門五郎の作を世阿弥が改作

【主人公】前シテ:鵜使いの老人、後シテ:悪鬼(閻魔王)

【あらすじ】(『鵜ノ段』の部分は斜体です。仕舞〔キリ〕の部分は下線部です。)

安房国(千葉県)の清澄の僧が、甲斐国(山梨県)への行脚を志し、途中、石和川のほとりに着きます。その土地の人に、一夜の宿を頼みますが、旅の者に宿を貸すことは禁制だと断られます。その代わり、川辺の御堂を教えられ、そこに泊まることにします。するとそこに一人の老人が鵜を休めるために立ち寄ります。僧が、老人なのにいつまでも殺生するのはやめて、他の職業についたらと意見をすると、老人は、自分は若い時からこの仕事で生計を立ててきたので、今さらやめるわけにはいかないと答えます。従僧が、二、三年前にこの地を訪れた時、このような老人に会い、もてなしを受けたと話すと、老人はその鵜使いは禁漁を犯したため殺されたと語り、実は自分がその亡霊だと明かします。僧のすすめで亡者は罪業消滅のため鵜飼のさまを見せて消えてゆきます。

<中入>

僧たちはやって来た先刻の土地の者からも、密漁をして殺された男の話を聞き、先ほどの老人こそ鵜使いの化身であったと信じ、法華経の文句を川辺の石に一字ずつ書いて川に沈めて回向します。すると地獄の鬼が現れて、かの鵜使いは地獄へ堕ちるはずであったが、生前、僧を接待した功徳と、法華経の効力によって救われ、極楽へ送ることになったと告げ、法華経のありがたさをたたえます。

 

【詞章】(『鵜ノ段』と仕舞〔キリ〕の部分の抜粋です。)

〔鵜ノ段〕

湿る松明振り立てて。藤の衣の玉襷。鵜籠を開き取り出し。島つ巣おろし荒鵜ども。この川波に。ばっと。放せば。おもしろの有様や。おもしろの有様や。底にも見ゆる篝火に。驚く魚を追い回し。潜きあげ掬いあげ。隙なく魚を食う時は。罪も報いも後の世も。忘れ果てて面白や。みなぎる水の淀ならば。生け簀の鯉やのぼらん。玉島川にあらねども。小鮎さ走るせぜらぎに。かだみて魚はよもためじ。不思議やな篝火の。燃えても影の暗くなるは。思い出でたり。月になりゆく悲しさよ。鵜舟のかがり影消えて。闇路に迷うこの身の。名残惜しさを如何にせん。名残惜しさを.如何にせん。

〔キリ〕

法華は利益深きゆえ。邪道に沈む群類を。救わんために来たりたり。げに有難き誓いかな。妙の一字はさていかに。それは褒美の言葉にて。妙なる法と説かれたり。経とはなどや名付くらん。それ聖教の都名にて。二つもなく。三つもなく。ただ一乗の徳によりて。奈落に沈み果てて。浮かみがたき悪人の。仏果を得ん事は。この経の利益ならずや。これを見かれを聞く時は。これを見かれを聞く時は。たとい悪人なりとも。慈悲の心を先として。僧会を供養ずるならば。その結縁に引かれつつ。仏果菩提に至るべし。げに往来の利益こそ。他を助くべき力なれ。他を助くべき力なれ。

 

 

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