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田村(たむら)

【分類】二番目物(修羅能

【作者】不詳  

【主人公】前シテ:童子、後シテ:坂上田村麻呂の霊

【あらすじ】(独吟・仕舞〔クセ〕の部分は上線部、仕舞〔キリ〕の部分は下線部です。

東国の僧が、都見物に来て、3月半ばに清水寺に着き、爛漫と咲くたそがれ時の桜花に見とれていると、箒を手にした一人の童子が現れ、その木陰を清めます。そこで、僧がこの寺の来歴を尋ねると、それに応じて、清水寺建立の縁起を詳しく語ります。また、あたりの名所を教え、ともに桜月夜の風情を楽しみます。その様子が常の人とはどうも違うのを訝った僧が、童子に名を尋ねると、我が名を知りたいのならば帰る方を見て下さいと、田村堂の内陣へと姿を消します。

<中入>

僧が夜通しで桜の木陰で経を読んでいると、威風堂々たる武将姿の坂上田村麻呂の霊が現れます。そして、勅命を受けて、鈴鹿山の賊を討伐すべく軍を進めたが、合戦の最中に千手観世音が出現し、その助勢によって、敵をことごとく滅ぼした様子を語り、これも観音の仏力であると述べます。

【詞章】 (独吟・仕舞〔クセ〕の部分と仕舞〔キリ〕の部分の抜粋です。)

[独吟の部分の抜粋、仕舞〔クセ〕の部分は下線部]

春宵一刻値千金。花に清香。月にかげ。げに千金にもかえじとは。今この時かや。やらやら面白の。地主の花や候かな。桜の木の間にもる月の。雪もふる夜嵐の。誘う花とつれて.散るや心なるらん。さぞな名にし負う。花の都の春の空。げに時めける粧。青陽の影みどりにて。風のどかなる。音羽の滝の白糸の。くり返し返しても。面白やありがたやな。地主権現の。花の色もことなり。ただ頼め。標茅が原のさしも草。われ世の中に。あらん限りはのご誓願。濁らじものを清水の緑もさすや青柳の。げにも枯れたる木なりとも。花桜木の粧い。いずくの春もおしなべて。のどけき影は有明の。天も花に酔えりや。面白の春べや。あら面白の春べや。

[仕舞〔キリ〕の部分の抜粋]

千方といっし逆臣に。仕えし鬼も。王地を侵す天罰にて。千方を捨つればたちまち亡び失せしぞかし。ましてや間近き.鈴鹿山。ふりさけ見れば伊勢の海。ふりさけ見れば伊勢の海。阿濃の松原むらだち来たって。鬼神は。黒雲鉄火をふらしつつ。数千騎に身を変じて山の。如くに見えたる所に。あれを見よ.不思議やな。あれを見よ不思議やな。味方の軍兵の旗の上に。千手観音の。光をはなって虚空に飛行し。千の御手ごとに。大悲の弓には。知恵の矢をはげて。ひとたび放てば千の矢先。雨あられと降りかかって。鬼神の勢に.乱れ落つれば。ことごとく矢先にかかって鬼神は残らず討たれにけり。有難し有難しや直に咒咀諸毒薬念彼。観音の力を合わせて.すなわち還着於本人.すなわち還着於本人の。敵は亡びにけりこれ.観音の.仏力なり。

 

 

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