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千手(せんじゅ)

【分類】三番目物(鬘物

【作者】金春善竹  

【主人公】シテ:千手の前

【あらすじ】(仕舞〔クセ〕の部分は下線部です。)

平重衡は、平清盛の五男で、一の谷の合戦では、大手(正面)の陣となった生田ノ森方面の副将でしたが、戦に敗れ、捕われて鎌倉に護送されます。鎌倉では狩野介宗茂に預けられ、幽囚の身で世の無常を嘆いています。源頼朝は、この若く凛々しい平家の御曹子に少なからず同情を寄せ、自分の侍女で、手越ノ宿の長者の娘である千手の前をつかわし、後いくばくもない命のつれづれを慰めます。ある春の雨の降る夜、宗茂は重衡に酒を勧めようとやって来ます。そこへ千手も琵琶を持って訪れます。重衡は、先日、千手を通じて頼朝に願い出てあった出家の望みがかなわぬことを告げられ、これもまた、父清盛の命令とはいいながら、南都(奈良)の仏寺を焼いた罪業の報いかと嘆きます。千手は重衡の心中を思いやり、酒の酌をし、朗詠を謡い、舞を舞って、心を引き立たせようとします。重衡も興にのって、琵琶を弾くと、千手も琴を合わせ、夜の更けるまで、つかの間の小宴を楽しみますが、翌朝、重衡は勅命によって、また都へ送り帰されることになり、鎌倉を出立します。千手は、その後姿を涙ながらに見送るのでした。

【詞章】 (仕舞〔クセ〕の部分の抜粋です。)

今は梓弓。よし力なし重衡も。引かんとするにいず方も。網を置きたるごとくにて。のがれかねたる淀鯉の。生捕られつつ川越の。茂房が手に渡り.心のほかの都入り。げにや世の中は。定めなきかな神無月.時雨降りおく奈良坂や。衆徒の手に渡りなば.とにもかくにも果てはせで。また鎌倉に渡さるる。ここはいずくぞ八つ橋の。雲居の都.いつかまた。三河の国や遠江。足柄箱根うち過ぎて。明けもやすらん星月夜。鎌倉山に入りしかば。憂き限りぞと思いしに.馴るればここも忍びねに.哀れ昔を思い妻の。灯暗うしては.数行虞氏が涙の。雨さえしきる夜の空。四面に楚歌の声の内。何とか返す舞の袖。思いの色にや出でぬらん.涙を添えてめぐらすも。雪のふるえの枯れてだに花咲く。千手の袖ならば。重ねていざや返さん。

 

 

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