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西王母せいおうぼ

【分類】初番目物 (脇能)

【作者】不詳

登場人物】 

登 場 人 物 装  束

シテ(前)

西王母 増女 鬘、鬘帯、箔、唐織着流、桃の枝

シテ(後)

西王母 増女

鬘、鬘帯、黒垂、天冠、箔、長絹、色大口、腰帯、扇、太刀

ツレ

侍女 小面 鬘、鬘帯、箔、唐織着流、桃の花実
ワキ 帝王

唐冠、色鉢巻、厚板、狩衣、白大口、腰帯、扇

ワキツレ 大臣二人

洞烏帽子、厚板、赤地狩衣、白大口、腰帯、扇

【あらすじ】(舞囃子の部分は下線部です。仕舞の部分は斜体です。)

周(中国)の穆王の時代に、帝主催の宴が開かれます。その宴の最中、ある女が桃の枝を持って帝のもとへ現れます。帝は西王母の桃であろうと喜びますが、女は、自分が西王母の化身であり、この世を言祝ぐため、桃の実を持って再び訪れることを予言して消え去ります。

<中入>

人々が様々な管弦を奏して西王母の到来を待ち受けていると、西王母は桃の実を携えた侍女とともに現れます。その桃の実を皇帝に捧げた後、西王母は優雅に舞いながら明け方の雲に紛れて天上へと帰っていきます。

 

【詞章】(舞囃子の部分は下線部です。仕舞の部分は斜体です。)

ワキ「有難や三皇五帝の昔より。今この時に至るまで。かかる聖主の例はなし。
ワキツレ「その御威光は日の如く。
ワキ「そのみ心はあめの如くに。
ワキツレ「豊にひろき御恵み。
ワキ「天にかかやき。
ワキツレ「地にみちて。
地謡「北辰を拱ずる.数々の。北辰の拱ずる数々の.萬天にめぐる星の如く。百官卿相雲客や。千戸万戸の旗をなびかし鉾を横だえ。四方の門べに群がりて。市をなし金銀珠玉。光をまじえ。光明赫奕として.日夜の勝劣見えざりけり。かかる例は喜見城.その楽しみもいかならん.その楽しみも.いかならん。
シテ「桃李物いわず.しもおのずから道をなし。貴賎まじわり。隙もなし。面白や四季折々の時を得て。草木国土おのずから。皆これ真如の花の色香。妙なる法の水の心。うるおう時やいたるらん。みちとせに咲く.花ごころ。折しる春の.かざしとかや。いざや君に捧げん.いざいざ君に捧げん。すめらぎのそのみ心はあまねくて。そのみ心はあまねくて。隙ゆく駒の法の道。千里のほかまで上もなき.道に至りて明らけき。霊山会上の法の場。廣き教えのまことある。君々たれば誰とても.いさみある世の.心かな.いさみある世の.心かな。いかに奏聞申すべき事の候。
ワキ「奏聞とはいかなる者ぞ。
シテ「これは三千年に一たび花さき實なる桃花なるが。今この時に當りて花咲く事。ひとえに君の威徳なればと。仰ぎて捧げ参らせ候。
ワキ「これは不思議の御事かな。そも三千年に花咲くとは。さてはいかさま聞き及べる。その西王母の園の桃か。
シテ「中々にそれとも今は物いわじ。
ワキ「さればこそそれぞ殊さら名におゝ花の。
シテ「桃李物いわず。
ワキ「春いくばくのとし月を。
シテ「送り迎えて.この春は
地謡「みちとせになるちょう桃の.ことしより。なるちょう桃の今年より。花咲く春にあう事も。ただこの君の四方の恵み。あつき國土の千千の種桃.花の色ぞ.妙なる。さては不思議や.久かたの。さてはふしぎや久かたの。天津乙女の目のあたり姿を見るぞふしぎなる。
シテ「疑いの心なおきそ露のまに。宿るや袖の月の影。雲のうえまでその恵みあまねき色に移りきぬ。
地謡「うつろう物は世の中の。人の心の花ならぬ。
シテ「身は天上の。
地謡「楽しみに。あけぬ暮れぬと送り迎う。年はふれど限りもなき。身の程も隔てなく。まことは我こそ西王母の。分身よまづ帰りて。花の實をも顕わさんと。天にぞあがりける.天にぞあがり.給いける。
<中入>
ワキ「これはふしぎの事なりと。その西王母の眞の姿を。もしや顕わし.給うぞと。
ワキ「糸竹呂律の.声々に。糸竹呂律の声々に。調べをなして音楽の。声すみ渡る天津風。雲の通い路.心せよ。雲の通い路.心せよ。
地謡「おも白や。面白や。かゝる天仙理王の。来臨なれば数々の。孔雀鳳凰.迦陵頻伽。とびめぐり声々に。たち舞うや袖の羽風。あまつ空の衣ならん.天の衣なるらん。
シテ「色々のささげ物。
地謡「色々の捧げ物の。中に妙に見えたるは.西王母のその姿。光り庭宇輝やかし。黄錦の御衣を着し。
シテ「つるぎを腰にさげ。
地謡「剱を腰にさげ。眞纓の冠をき.玉觴に盛れる桃を。侍女が手より取り渡し。
シテ「君にささぐる.桃實。
地謡「花の盃。とりあえず。
<中ノ舞>
地謡「花も酔えるや盃の。花も酔えるや盃の。手まずさえぎる曲水の宴かや御川の水に。戯れ戯るるたおやめの。袖も裳裾もたなびきたなびく。雲の花鳥.春風に和しつつ。雲路にうつれば。王母も伴いよじのぼり。王母も伴い上るや天路の。行方も知らずぞ。なりにける。

 

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