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実盛(さねもり)
【分類】二番目物 (修羅物)
【作者】世阿弥
【主人公】前シテ:老翁、後シテ:斉藤別当実盛
【あらすじ】(仕舞〔クセ〕の部分は上線部、仕舞〔キリ〕の部分は下線部です。)
諸国遊行の他阿弥上人が加賀国(石川県)篠原で連日説法を行っていると、一人の老人が一日も欠かさず聴聞に来ます。しかし、不思議なことにその老人の姿は、上人以外の人には見えません。そのため、上人がその老人と言葉を交わしていても、上人が独り言をしゃべっているように聞こえ、土地の人は不審に思います。今日も、その老人がやってきたので、上人がその名を尋ねますが、なかなか明かしません。強いて尋ねると、人を遠ざけた後に、斉藤実盛は篠原合戦で討たれ、その首をこの前の池で洗ったことを話し、自分こそ二百余年を経て、なお成仏できないでいる実盛の亡霊であると明かして消え失せます。
<中入>
上人は里の男に実盛の出自、最期の様子、首実検の様などを尋ね、いよいよ先刻の老人は実盛の亡霊であると認め、その跡を弔うことにします。その夜、上人が池のほとりで念仏を唱えていると、実盛の霊が、白髪の老武者の姿で現われ、その手向けに感謝し、報恩のため、首実検の様、さかのぼって錦の直垂を拝領しての出陣の模様、木曾義仲と組もうとして、手塚太郎に討ち取られた一部始終を物語り、なおも回向を頼んで消え失せます。
【詞章】(仕舞〔クセ〕の部分と仕舞〔キリ〕の部分の抜粋です。)
〔クセ〕
また実盛が。錦の直垂を着ること.私ならぬ望みなり。実盛。都を出でし時.宗盛公に申すよう。古郷へは錦を着て。帰るといえる本文あり。実盛生国は。越前の者にて候いしが。近年。ご領につけられて。武蔵の長井に。居住つかまつり候いき。この度北国に。まかり下だりて候わば。定めて。討死つかまつるべし。老後の思い出これに過ぎじ。ご免あれと望みしかば。赤地の錦の.直垂をくだしたまわりぬ。しかれば古歌にももみじ葉を。分けつつ行けば錦着て。家に帰ると。人や見るらんと詠みしも。この本文の心なり。さればいにしえの。朱買臣は。錦の袂を。会稽山にひるがえし。今の実盛は名を北国の巷にあげ。隠れなかりし弓取りの。名は末代に有明の。月の夜すがら.懺悔物語.申さん。
〔キリ〕
その執心の修羅の業。めぐりめぐりてまたここに。木曽と組まんとたくみしに。手塚めに隔てられし。無念は.今もあり。つづく兵たれたれと。名のる中にもまず進む。手塚の太郎光盛が。郎等は主を討たせじと。かけ隔たりて実盛と。押し並べて組む所を。あっぱれ.おのれは日本一の。剛の者とぐんじょうずよとて。鞍の前輪に押しつけて。首かき切って。捨ててげり。その後手塚の太郎.実盛が弓手にまわりて。草摺をたたみあげて。二刀さす所を.むずと組んで二匹が間に。どうど落ちけるが。老武者の悲しさは。軍にはし疲れたり。風にちぢめる。枯木の力も落ちて。手塚が下になる所を。郎等は落ちあいて。ついに首をばかき落とされて。篠原の土となって。影も形もなき跡の。影も形も南無阿弥陀仏.弔らいてたびたまえ.跡弔らいてたびたまえ。