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紅葉狩(もみじがり)

【分類】五番目物 (切能)

【作者】観世小次郎信光

【主人公】前シテ:貴女、後シテ:鬼神

【あらすじ】(舞囃子の部分は斜体の部分です。仕舞の部分は下線部です。)

秋も半ばの頃、所は信濃国(長野県)戸隠山へ、とある上臈が、数人の侍女を連れて、紅葉狩にやって来て、山陰で酒宴を始めます。そこへ、鹿狩りに来た平維茂とその従者が通りかかります。そして、この山中での人影を不審に思い、従者に名を尋ねさせにやります。女達は、名を名乗りませんが、身分の高い女性の忍び遊びだという事です。維茂は、その興を妨げないようにと、馬から降り、道を替えて通りすぎようとします。すると女達は、その心づかいにかえって感心し、維茂を引き留め、酒宴を共にするように誘います。維茂は断りかね、勧めに応じて盃を重ね、美女の舞う見事な舞に見とれます。いつしか酔がまわって、維茂は寝入ってしまいます。女達はそれを見届けると、鬼の本性を現わし、「目を覚ますな」といいすてて、山中に姿を消します。

<中入>

すると八幡八幡宮の末杜の神が、維茂の前に現われ、神剣を授け、鬼神を退治するように神勅を伝えます。目を覚ました維茂は、神剣を押しいただき、身支度をして待ち構えます。やがて山中に稲妻が光り、雷鳴がとどろいて騒然となります。そして、本性を現わした鬼女が襲いかかって来ます。維茂は刀を抜いて応戦し、激しい格闘の末、ついに鬼女を斬り伏せます。その威勢は真に立派なものでした。

【詞章】(舞囃子の部分の抜粋です。仕舞の部分は下線部です。)

林間に酒を温めて紅葉をたくとかや。げに面白や所から。巌の上の苔むしろ。片敷く袖も紅葉衣の.くれなゐ深き顔ばせの。この世の人とも.思われず。胸うち騒ぐ.ばかりなり。さなきだに人心。乱るるふしは竹の葉の。露ばかりだに受けじとは。思いしかども杯に。向えば変わる心かな。されば仏も戒の。道はさまざま多けれど。ことに飲酒を破りなば。邪淫妄語ももろともに。乱心の花かずら。かかる姿はまた世にも。たぐい嵐の山桜。よその見る目もいかならん。よしや思えばこれとても。前世のちぎり浅からぬ。深き情の色見えて。かかる折しも道の辺の。草葉の露のかごとをも.かけてぞ頼む行くすえを。契るもはかなうちつけに。人の心は白雲の.立ちわずらえる.景色かな。かくて時刻も移り行く雲に嵐の声すなり。散るか正木の葛城の。神の契りの夜かけて。月の杯さす袖も。雪をめぐらす袂かな。たえず紅葉。

<中ノ舞>

たえず紅葉.青苔の地。たえず紅葉.青苔の地。またこれ涼風暮れゆく空に。雨うちそそぐ夜嵐の。ものすさまじき山陰に月待つほどのうたた寝に。片敷く袖も露深し。夢ばし覚ましたもうなよ.夢ばし覚まし.たもうなよ。

 

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