演目の紹介                    →「演目の一覧」に戻る

松風(まつかぜ)

【分類】三番目物 (鬘物)

【作者】世阿弥

【主人公】シテ:汐汲女(松風の霊)

【あらすじ】(仕舞の部分は下線部です。)

ある秋の夕暮れ、都から旅に出た僧が、西国へ下る途中、須磨の浦に着き、由緒がありそうな一本の松を見つけます。土地の者に尋ねると、在原行平が愛した松風、村雨という二人の海女のゆかりの松であると教えられます。僧は、その松をねんごろに弔った後、近くの塩焼き小屋で一夜を明かそうと思います。やがて、二人の海女が、月明かりに汐を汲み、海女の身を嘆きつつ、車を引いて帰って来ます。僧は、彼女らに一夜の宿を乞います。姉妹は、見苦しい侘び住いを恥じて断りますが、重ねての申し出に、僧を請じ入れます。そして、僧が磯辺の松を弔った話をすると、二人はなぜか涙にくれます。僧が不審に思って、その仔細を尋ねると、自分たちは、実は、昔この浦に3年の間、流されていた行平中納言に寵愛を受けた松風、村雨の幽霊であると名乗り、行平との間の懐かしい思い出や、行平が都に帰ってまもなく世を去ったことなどを物語ります。そして、松風は行平の形見の烏帽子狩衣を手にしながら追憶の涙に沈みます。やがて、その装束を身につけた松風は、物狂いの状態になり、狂おしく舞い、松が行平であるかのように寄り添います。しばらくして、落ち着いた松風は、村雨と共に妄執の苦しみを述べ、あらためて回向を乞うように僧に頼みます。そこで、僧が目を覚ますと、既に夜が明けていて、松風の音が残っているだけでした。

【詞章】(仕舞の部分の抜粋です。)

いなばの山の峰に生うる。松とし聞かば。今帰り来ん。それはいなばの。遠山松.これは懐かし君ここに。須磨の浦わの松の行平。立ち帰りこば。我も木蔭に.いざ立ち寄りて。そなれ松の。なつかしや。松に吹き来る風も狂じて。須磨の高波.はげしき夜すがら。妄執の夢にみみゆるなり。我が跡弔いてたび給え。暇申して。帰る波の音の。須磨の浦かけて吹くやうしろの山おろし。関路の鳥も声々に。夢も跡なく夜も明けて村雨と聞きしを今朝見れば。松風ばかりや.残るらん。

 

 

[ ホーム ] [ 能のミニ知識 ] [ 能の演目の紹介 ]