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鞍馬天狗(くらまてんぐ)

【分類】五番目物(切能)

【作者】宮増

【主人公】シテ:山伏、後シテ:大天狗

【あらすじ】(第43回名古屋春栄会の独吟の部分は上線部、舞囃子の部分は下線部です。)

鞍馬山の奥、僧正が谷に住む山伏が、鞍馬寺の人々の花見があると聞いてやって来ます。一方、西谷の能力が、東谷の僧のもとに花見への招きの文を届けます。

東谷の一行は、その能力と共に西谷に来て、盛りの花を眺め、西谷の能力も稚児たちの慰みにと小舞を舞います。そこへ山伏が忽然と姿を現します。なんとなく興をそがれた一行は、そのまま帰ってしまいます。一人の稚児が残って、山伏に声をかけ一緒に花を見ようといいます。山伏はこの少年が源氏の頭領の三男の沙那王(牛若丸)であることを知り、その境遇に同情し、花の名所を案内してまわります。牛若が好意に感謝してその名を尋ねると、山伏はこの山に住む大天狗であると名乗り、兵法を伝えるから平家を滅ぼすように勧め、明日の再会を約して飛び去ります。

<中入>

翌日、牛若が顕紋紗のはなやなか直垂姿で僧正が谷に来ると、大天狗が全国の名だたる天狗を引き連れて現れます。そして張良の故事を語り、兵法の秘伝を授け、夕刻になり、行く末の武運を守る事を約して消えうせます。

【詞章】(第43回名古屋春栄会の独吟の部分と舞囃子の部分の抜粋です。

 〔第43回名古屋春栄会の独吟の部分〕

そもそもこれは。鞍馬の奥僧正が谷の。大天狗なり。まずおん供の天狗は。たれたれぞ筑紫には。彦山の豊前坊。四州には。白峰の相模坊。大山の伯耆坊。飯綱の三郎富士太郎。大峰の前鬼が一党.葛城高天。よそまでもあるまじ。辺土においては。比良。横川。如意が岳。我慢高雄の峰に住んで。人のためには愛宕山。霞とたなびき雲となって。月は鞍馬の.僧正が。谷を響かし峰を動かし。嵐こがらし滝の音。天狗倒しはおびたたしや。

 〔舞囃子〕

なお安からず思いしかども。大事を伝うる際なれば。沓をおっ取り.差し上げて。張良沓を捧げつつ。張良沓を捧げつつ。馬の上なる石公に。はかせけるにぞ心とけ.兵法の奥儀を伝えけり。そのごとくに和上臈も。そのごとくに和上臈も。さもはなやかなるおん有様にて.姿も心も荒天狗を。師匠や坊主とご賞翫は.いかにも大事を残さず伝えて.平家を討たんとおぼし召すかや優しの心ざしやな。そもそも武略の誉の道。

<舞働>

そもそも武略の誉の道。源平藤橘四家にもとりわき。かの家の水上は。清和天皇の後胤として。あらあら時節を考え来たるに。驕れる平家を西海に追っくだし。煙波蒼波の浮雲に飛行の自在をうけて。敵をたいらげ会稽をすすがん。おん身と守るべし。これまでなりや.おん暇申して立ち帰れば。牛若袂にすがりたまえばまた立ち帰り。げに名残あり。西海四海の合戦というとも.影身を離れず.弓矢の力を添え守るべし。頼めや頼めと夕陰暗き。頼めや頼めと夕陰鞍馬の。梢にかけって.失せにけり。

 

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