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通小町(かよいこまち)

【分類】四番目物 (雑能)

【作者】観阿弥原作、世阿弥改作

【主人公】シテ:深草少将の怨霊

【あらすじ】(木実ノ段は、上線部です。仕舞の部分は下線部です。)

八瀬の里で修行する僧のもとへ毎日木の実や薪を持って来る女がいました。今日もいつものように女が来て木の実づくしの物語などをしますが、僧に素性を問われると「小野とはいわじ薄〔すすき〕生いけり」とだけ口ずさみ、姿を消してしまいます。僧は小野小町の幽霊だろうと察し、市原野に出掛け、小町の亡き跡を弔います。すると薄〔すすき〕の中から小町の亡霊が現れ、受戒を請います。すると続いて深草少将の亡霊が現れ、小町の成仏を妨げ、共に愛欲の地獄に留まろうと小町の成仏を妨げます。少将は生前小町に百夜通いを求められ、雨の夜も雪の夜も小町の指示通りに身をやつした姿で小町を慕って通い続けたが、九十九夜目に思いを果たせぬまま死んでしまったのでした。そこで僧は二人に受戒を勧め、懺悔としてかつての百夜通いの有様を再現するように説きます。少将は百夜通いの様子を狂おしく再現して見せ、やがて二人とも一念の悟りによって共に成仏します。

【詞章】 (木実ノ段と仕舞の部分の抜粋です。)

〔木実ノ段〕

かたじけなきおん喩えなれどもいかなれば悉達太子は。浄飯王の都を出で。檀特山のさがしき道。菜摘み水汲み.薪とりどり。様様におん身をやつし。仙人に仕え給いしぞかし。いわんやこれは賎の女の。摘みならいたる根芹若菜。わが身をだにも知らぬほど。賎しくかろきこの身なれば。重しとは持たぬ.薪なり。拾う木の実は.なになに。拾う木の実はなになにぞ。いにしえ見馴れし。車に似たるは。嵐にもろき落椎。歌人の家の木の実には。人丸の.垣おの柿。山の辺の笹栗。窓の梅。園の桃。花の名にある桜麻の。苧生の浦梨なおもあり。擽香椎まてま椎。大小柑子金柑。あわれ昔の恋しきは.花橘の一枝の。花橘の一枝。

キリの仕舞どころ〕

暁は。暁は。数々多き。思いかな。我が為ならば。鳥もよし鳴け。鐘もただ鳴れ。夜も明けよ。ただ独り寝ならば。辛からし。かように心を。尽し尽して。かように心を尽し尽して。榻の数々。よみて見たれば。九十九夜なり。今は一夜よ嬉しやとて。待つ日になりぬ急いで行かん。姿はいかに。笠も見苦し。風折烏帽子。蓑をも投げ捨て。花摺り衣の。色襲ね。裏紫の藤袴。待つらんものを。あら急がしや。すわ早今日も。紅の狩衣の。衣紋気高く引き繕い。飲酒はいかに。月の盃なりとても。戒ならば保たんと。ただ一念の悟にて。多くの罪を滅して。小野の小町も少将も。共に仏道なりにけり.共に仏道なりにけり。

 

 

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