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春日竜神(かすがりゅうじん)

【分類】五番目物 (切能)

【作者】不詳

【主人公】前シテ:宮守の翁、後シテ:竜神

【あらすじ】(舞囃子の部分は下線部です。仕舞の部分は斜体です。)

山城国(京都府)、栂尾の明恵上人が中国、インドの地に渡ろうと思い、その暇乞いに春日明神に参詣すべく奈良にやって来ます。春日の里につくと、宮守の老人が現れて、明恵上人が唐、天竺へおもむくと聞いて驚きます。そして、かねてから春日明神は、明恵上人を太郎、笠置の解脱上人を次郎と呼んで、両手両足のように思し召して特別に守護しておられるのに、いま上人が日本を去っては、神慮に背くものであるといいます。上人は、霊地、仏跡を巡拝するためだから、神もおとがめにならないだろうと答えます。しかし、宮守は、釈迦が在世中の時ならば利益もあるが、入滅後の今日では、この春日山が釈迦が説法をされた霊鷲山であり、春日野が釈迦が悟りを開いた鹿野苑、比叡山は天台山、吉野、筑波は五台山を移したものであるからと、入唐渡天が無用であることを説き諭します。さすがに明恵上人も、これをご神託と思い、宮守の名を問います。老人は春日明神の使者、時風秀行と名乗り、上人が入唐渡天を思い止まるならば、誕生から入滅までの釈迦の一代記を見せようと言って消え失せてしまいます。

≪中入≫

やがて、春日野は、一面に金色の世界となって、八大竜王が百千の眷属をひきつれて現れ、他の仏達も会座に参会し、御法を聴聞するさまを見せます。上人がこの奇跡を見て、入唐渡天を思い止まると、竜神は姿を大蛇に変えて、猿沢の池の波をけたてて消え失せます。

【詞章】(舞囃子の部分の抜粋です。仕舞の部分は下線部です。

時に大地震動するは。いかさま下界の竜神の出現かやと。人民一同に。雷同せり。時に大地震動するは。下界の竜神の参会か。すは、八大竜王よ。難陀竜王。跋難陀竜王。娑伽羅竜王。和修吉竜王。徳叉迦竜王。阿那婆達多竜王。百千眷属引き連れ引き連れ。平地に波瀾を立てて。仏の会座に出来して。み法を聴聞する。そのほか妙法緊那羅王。また持法緊那羅王。楽乾闥婆王。楽音乾闥婆王。婆稚阿修羅王。羅ゴ阿修羅王の。恒沙の眷属引き連れ引き連れ。これも同じく座列せり。竜女が立ち舞う波瀾の袖。竜女が立ち舞う波瀾の袖。白妙なれや和田の原の。波浪は白玉。立つはみどりの、空色も映る海原や。沖行くばかりに月のみ舟の。佐保の川面に。浮かみ出ずれば八大竜王。

<働キ>

八大竜王は八つの冠を傾け。所は春日野の月の三笠の雲にのぼり。地に降りて、飛火の野守も出でて見よや。麻耶の誕生、鷲峰の説法、双林の入滅。ことごとく終りてこれまでなりや明恵上人、さて入唐は。留るべし。渡天はいかに。渡るまじ。さて仏跡は。尋ぬまじや。尋ねても尋ねてもこの上嵐の雲に乗りて。竜女は南方に飛び去り行けば。竜神は猿沢の池の青波蹴立て蹴立てて。その丈千尋の大蛇となって。天に群り地にわだかまりて、池水を返して。失せにけり。

 

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