演目の紹介                    →「演目の一覧」に戻る

鉄輪かなわ

【分類】四番目物 (雑能)

【作者】不明

【主人公】前シテ:都の女、後シテ:鬼女

【あらすじ】(後シテ登場以降は下線部です。仕舞の部分は斜体の部分です。)

都に住む一人の女が、自分を捨てて新しく妻を迎えた夫の不実を恨んで、洛北・貴船の社に日参し、祈願をかけています。今日も社前に進むと、待ち構えていた社人が、「頭に鉄輪をいただき、その三本の足に火を灯し、顔に丹を塗り、赤い着物を着て、怒る心を持てば、たちまち鬼になって願いがかなう」という神託のあったことを告げます。女は人違いだと言いますが、そう言う間にも顔色が変わり、つれない人に思い知らそうと走り去ります。

<中入>

一方、下京の男は、悪い夢見が続くので、陰陽師の清明のもとを訪れ、事情を述べて占ってもらうと、女の恨みで今夜にも命が尽きると言われ、急いで祈祷を頼みます。清明は、祭壇を調え、男と新しい妻の人形を作って置き、祈り始めます。すると、悪鬼となった女の霊が現れ、夫の心変わりを責め、後妻の髪をつかんで激しく打ちすえますが、守護する神々に追っ立てられ、神通力を失って、心を残しながらも退散します。

【詞章】(後シテ登場以降の抜粋です。仕舞の部分は下線部です。)

それ花は斜脚の暖風に開けて。同じく暮春の風に散り。月は東山より出でて早く西嶺に隠れぬ。世上の無常はかくの如し。因果は車輪のめぐるがごとし。我に憂かりし人人に。たちまち報いを.見すべきなり。恋の身の浮かむ事なき賀茂川に。沈みしは水の.青き鬼。われは貴船の.川瀬の蛍火。頭に頂く鉄輪の足の。焔の赤き.鬼となって。臥したる男の枕に寄りそい。いかにつま人よ。珍しや。怨めしや。おん身と契りしその時は。玉椿の八千代。二葉の松の末かけて。変らじとこそ思いしに。などしも捨ては.はてたもうらん。あら怨めしや。捨てられて。捨てられて。思う思いの涙にむせび。人を怨み。夫をかこち。ある時は恋しく。または怨めしく。起きても寝ても忘れぬ思いの。因果は今ぞと。白雪の消えなん命は今宵ぞ。痛わしや。悪しかれと思わぬ山の.峰にだに。思わぬ山の峰にだに。人の嘆きは生うなるに。いわんや年月。思いに沈む怨みの数。つもって執心の。鬼となるもことわりや。いでいで命を取らん。いでいで命を取らんと.しもっを振り上げうわなりの。髪を手にから巻いて。打つや宇都の山の。夢うつつとも分かざる浮き世に。因果はめぐりあいたり。今さらさこそ.悔しかるらめ。さて懲りよ思い知れ。ことさら怨めしき。ことさら怨めしき。あだし男を取って行かんと。臥したる枕に立ち寄り見れば。恐ろしやみてぐらに。三十番神ましまして。魍魎鬼神はけがらわしや。出でよ出でよと責めたもうぞや。腹立ちや思う夫をば。取らであまさえ神々の。責めを蒙る悪鬼の神通通力自在の勢い絶えて。力もたよたよと。足弱車のめぐり逢うべき。時節を待つべしや。まずこの度は帰るべしと。いう声ばかりはさだかに聞こえ。いう声ばかり.聞こえて姿は。目に見えぬ鬼とぞ.なりにける。

 

[ ホーム ] [ 能のミニ知識 ] [ 能の演目の紹介 ]