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自然居士(じねんこじ)

【分類】四番目物 (雑能)

【作者】観阿弥

【主人公】シテ:自然居士

【あらすじ】(舞囃子の部分は下線部です。)

東山雲居寺(京都市)門前の男が、自然居士が雲居寺造営のため七日間の説法を行っていることを述べ、今日が結願の日であると告げます。やがて自然居士が登場し、説法を始めると、一人の少女が、小袖を供え、両親追善のために読経を願う文を持って来ます。居士はその文を開き読み上げます。そこへ二人の人商人が現れ、昨日買い取った少女がまだ戻らないので探していると言い、少女を見つけると引き立てて行きます。少女は、自分の身を売って求め得た小袖を、布施に供えたことがわかり、居士も集まった人々もその哀れさに同情の涙をもよおします。居士は仏法修行をここで捨ててでも、少女を救おうと結願目前の説法を中止し、小袖を抱えて人商人たちの後を追います。そして、大津の浜でちょうど船出しようとしている人商人たちに追いつきます。居士は、小袖を投げ返し、着物の裾を波に濡らして舟にすがりついて引き止め、少女を戻してくれるように頼みます。しかし、人商人は、一度買ったらもう戻さぬのが決まりとうそぶきます。居士は、不幸せな者を救うことができないなら、雲居寺には戻らぬ、この少女とともに陸奥国まで行こう、たとえ命を取られても舟からは降りぬと答えます。居士の気迫に押され気味の人商人は、居士なぶりに転じ、どうしても少女を返して欲しいなら、今ここであれこれ芸をやってみせろと迫ります。居士はよかろうと言って、芸尽くしを始めます。中之舞から曲舞を舞い、ササラをすり、を打って、舞に舞います。こうして、やっと人商人から少女を取り戻し、ともに都へ帰ります。

【詞章】(舞囃子の部分の抜粋です。)

黄帝の臣下に。貨狄といえる士卒あり。ある時貨狄庭上の。池の面を見渡せば.おりふし秋の末なるに。寒き嵐に散る柳の.一葉水に浮みしに。また蜘蛛という虫。これも虚空に落ちけるが.その一葉の上に乗りつつ。次第次第にささがにの.糸はかなくも柳の葉を。吹きくる風にさそわれ。汀に寄りし秋霧の。立ちくる蜘蛛の振舞。げにもと思いそめしよりたくみて舟を作れり。黄帝これに召されて。烏江を漕ぎ渡りて.蚩尤を安く亡し。おん代を治めたもう事。一万八千歳とかや。しかれば船のせんの字を。公にすすむと書きたり。さてまた天子のおん舸を。竜舸と名づけ奉り。舟を一葉という事。この御宇より始まれり。また君のご座舟を。竜頭鷁首と申すも.このみ代より起れり。

われらが舟を竜頭鷁首と祝われ祝着申して候。とてものことにささらをすっておん見せ候え。さらばささらをたまわり候え。船中の事にて候ほどにささらは持たず候。さらばこの序にささらの起りを語って聞かせ申そう。かの仏の難行苦行したまいしも。一切衆生を助けんためなり。居士もまたこの者ゆえに身を捨て骨を砕くべし。それささらの起こりを尋ぬるに。東山にある僧の。扇の上に木の葉の散りしを。数珠にて払いし音よりも。ささらという事始まりたり。そのごとくささらの子には百八の数珠。ささらの竹には扇の骨。おっとり返しこれをする。所は志賀の.浦なれば。さざ波やさざ波や。志賀唐崎の。松の上葉をさらりさらりとささらの真似を。数珠にてすれば。ささらよりなお。手をもするもの。今は助けて.たびたまえ。とてもの事に鞨鼓を打っておん見せ候え。この上はともかくもなぶられ参らせ候べし。もとより鼓は。波の音。

もとより鼓は波の音。寄せては岸を.どうどは打ち。雨雲まよう鳴神の。とどろとどろと鳴る時は。降り来る雨ははらはらはらと。小篠の竹の。ささらをすり。狂言ながらも法の道。今は菩提の岸に寄せくる。舟の内より。ていとうど打ち連れて。ともに都に.のぼりけり.ともに都にのぼりけり。

 

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