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生田(いくた)

【分類】二番目物 (修羅能)

【作者】金春禅鳳

【主人公】シテ:平敦盛の霊

【あらすじ】(仕舞〔クセ〕の部分は下線部、仕舞〔キリ〕の部分は斜体の部分です。

賀茂明神へ参詣した帰り、法然上人は美しい手箱に入った男の子を拾います。その後、その子は健やかに成長しましたが、ある時期から、自分に父母がいないことを悲しむようになりました。そこであるとき、上人が説法のおりに、この話をすると、聴衆になかから若い女性が現れ、自分こそ、その子の母であると名乗り出、父親は一ノ谷の合戦で戦死した平敦盛であると言います。この話を聞いた男の子は、賀茂明神に17日間の参詣を続け、神の力で亡き父に再会させてくれるようにと誓願しました。そして満願の日、賀茂明神から生田の森に下れ、というお告げを聞きます。男の子は、従者を連れて、はやる心を抑えながら生田に向かいます。生田の森は、森の景色、川の流れ、いずれも都で聞く以上に素晴らしい所でした。日が暮れ、一行が人家に宿をとろうとすると、奧から甲冑をつけた若武者姿の敦盛の幽霊が現れます。その姿を見て、ようやく父に会えたと、男の子は袂にすがりつきます。敦盛の幽霊は、息子との再会の喜びながらも、自分の死後、母の手からも離され、仏門の世界に入らざるを得なかった息子の境遇を哀れみます。そして、父は賀茂明神に誓願した息子の孝行心によって姿を見せることができたと言い、時の経つのも忘れて、平家が都落ちをしてから自分が討たれた一ノ谷の合戦までの様子などを話します。しかし、まもなくすると、地獄の閻魔宮からの使いが現れ、敦盛の帰りが遅いため、閻王が怒っていることを伝えます。すると黒雲にわかに立ち曇り、どこからともなく無数の修羅の敵が敦盛に戦いを挑みかかってきます。勝手知ったる修羅道の戦いなので、敦盛は真っ向から太刀を振りかざし、並みいる敵を倒していきます。そうして明け方を迎え、黒雲も、修羅の敵の姿も消え失せると、父は息子に弔いを頼み、未練を残しながらまた霊界へと帰っていくのでした

 

【詞章】(仕舞の部分の抜粋です。)

〔クセ〕

然るに平家の。栄花を極めしその始め。花鳥風月のたわむれ。詩歌管絃のさまざまに。春秋を送り迎えしに。いかなるおりか来たりけん。木曽のかけ橋掛けてだに思わぬ。敵に落されて。主上を始め奉り。一門の人もことごとく。花の都を立ち出で。西海の空におもむきぬ。習わぬ旅の道すがら。山を越え海を渡り。しばしは天さがる。鄙の住居の身なりしに。また立ち帰る浦波の。須磨の山路や一の谷。生田の森に着きしかば。ここは都もほど近しと。一門の人人も。喜びをなししおりふしに。範頼義経のその勢。雲や霞のごとくにて。しばらく戦うといえども。平家は運もつき弓の。やたけ心もよわよわと。皆散りぢりになりはてて。哀れも深き生田川の。身を捨てし物語。語るぞよしなかりける。

〔キリ〕

片時の暇と仰せられしに。今までの遅参に。閻王怒らせたもうぞと。言うかと見れば不思議やな。言うかと見れば不思議やな。黒雲にわかに立ち来たり。猛火を放ち剣をふらして。その数知らざる修羅の敵。天地を響かし満ちみちたり。ものものし明け暮れに。馴れつる修羅の敵ぞかしと。太刀まっこうに指しかざし。ここやかしこに走りめぐり。火花を散らして戦いしが。しばらくありて黒雲も。次第に立ち去り修羅の敵も.たちまちに消え失せて。月澄み渡りて明明たる。暁の空とぞなりたりける。恥かしや子ながらも。かく苦しみを見ることよ。急ぎ帰りてなき跡を.ねんごろに弔いてたび給えと。泣く泣く袂を引き別れ。立ち去る姿はかげろおの。小野の浅茅の露霜と。形は消えて失せにけり.形は消えて失せにけり。

 

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