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放下僧ほうかぞう

【分類】四番目物 (雑能)

【作者】不明

【主人公】前シテ:禅僧・小次郎の兄、後シテ:小次郎の兄

【あらすじ】(仕舞〔クセ〕の部分は上線部です。舞囃子の部分は下線部です。仕舞〔小歌〕の部分は斜体です。)

下野国(栃木県)の住人、牧野左衛門は、相模国(神奈川県)の利根信俊と口論の末、打ち果たされてしまいます。その子の牧野小次郎は、父の無念を思い、信俊を敵とつけ狙いますが、相手は大勢、こちらは唯一人で思うにまかせません。そこで、幼少から出家している兄に力を求めるべく、禅学修行中の学寮へ訪ねて行きます。そして一緒に仇討に出立しようと促しますが、兄は出家の身を思い、ためらいます。小次郎は、親の敵を打たぬのは不孝であるといい、母を殺した虎をねらって、百日、野に出、虎と見誤って大石を射たが、一心が通じて矢は突き立ち、血が流れた、という中国の故事を物語ります。兄も弟の熱意に動かされ、仇討に同意します。そして二人は談合の末、敵に近寄る方便として、当時流行の放下僧と放下に変装して、故郷に名残りを惜しみつつ出発します。

<中入>

一方、利根信俊は夢見が悪いため、瀬戸の三島神社への参詣を志します。道中、放下が来るというので、従者が旅の徒然にと呼び寄せます。小次郎兄弟は、浮雲・流水と名乗り、信俊に近づきます。そして、兄は自分の持つ団扇のいわれを、弟も携えた弓矢のことを面白く説きます。つづいて禅問答に興じ、曲舞鞨鼓、小歌などさまざまな芸を見せていきます。そして、相手の油断を見すまし、兄弟ともども斬りかかって、首尾よく本望をとげます。

 

【詞章】(仕舞〔クセ〕の部分と舞囃子の部分の抜粋です。仕舞〔小歌〕の部分は下線部です。)

〔クセ〕

青陽の春のあしたには。谷の戸出づる鴬の。凍れる涙とけそめて。雪消の水のうたかたに。あい宿りする蛙の声。聞けば心のあるものを。目に見ぬ秋を風に聞き。荻の葉そよぐ古里の。田面に落つる雁鳴きて.稲葉の雲の夕時雨。妻恋いかぬる小牡鹿の。たたずむ月を山に見て指を忘るる思いあり。由良の港の釣舟は。魚を得て筌を捨つ。これを見れかれを聞く時は。峰の嵐や谷の声。夕べの煙朝霞.みなこれ。三界唯心の。ことわりなりとおぼしめし心を悟り.たまえや。

 

〔舞囃子〕

由良の港の釣り舟は。魚を得て筌を捨つ。これを見かれを聞く時は。峰の嵐や谷の声。夕べの煙朝霞。みなこれ。三界唯心の。ことわりなりとおぼしめし心を悟り.たまえや。風にまかする浮雲の。種と心や。なりぬらん。

<羯鼓>

面白の。花の都や筆に書くとも及ばじ。東には。祇園清水落ちくる滝の。音羽の嵐に地主の桜はちりぢり。西は法輪。嵯峨の御寺廻らば廻れ。水車の輪のいせき井堰の川波。川柳は。水に揉まるるふくら雀は。竹に揉まるる野辺のすすきは。風に揉まるる都の牛は。車に揉まるる茶臼は挽木に揉まるる。げにまこと。忘れたりとよこきりこは放下に揉まるる。こきりこの二つの竹の。代々を重ねて。うち治めたる御代かな。

 

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