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鉢木はちのき

【分類】 四番目物  (雑能)

【作者】 不詳

【主人公】 シテ:佐野源左衛門常世

【あらすじ】(薪ノ段の部分は下線部です。)

信濃から鎌倉へ上ろうとする一人の旅の僧が、途中、上野国(群馬県)佐野のあたりで雪の降り込められてしまいます。通りかかった一軒家に宿を借りようとすると、その家の妻は主人が留守だから待つように言います。やがて、雪の中を帰ってきた主人は、夫婦二人すら暮らしかねている有様の見苦しい家ですからと断り、十八町先の宿場を教えます。しかし、大雪の中を立ち去る旅の僧の後姿を見て、気の毒に思い、呼び戻します。そして、貧しい粟飯を出してもてなし、秘蔵の鉢木を火にくべて暖をとらせます。僧がその人となりに感じ、名を尋ねると、佐野源左衛門常世のなれの果てですと名乗り、領地を一族のものに横領され、零落しているが、今でも鎌倉に一大事が起これば、一番に馳せ参ずる覚悟だと、その意気を洩らします。翌朝、旅の僧は、鎌倉へ来られることがあったら訪ねて下さい、幕府へもお手引きしましょうと慰めて、立ち去ります。
<中入>
それからまもなく、鎌倉で兵を集めるというので、常世も痩馬に打ち乗って駆けつけます。北条時頼は、二階堂と太刀持に命じて集まった軍勢の中から常世を探させ、御前に召された常世に、過日の旅の僧は自分であった明かし、彼の忠誠を賞して、旧領を返させた上、梅桜松に縁のある三か所の荘園を与えます。常世は一陽来復の喜びを得て、勇んで郷里へ帰ってゆきます。

【詞章】(薪ノ段の部分の抜粋です。)

仙人に仕えし雪山の薪。かくこそあらめ。我も身を。捨人の為の鉢の木。切るとてもよしや惜からじと。雪打ち払いて見れば面白や.いかにせん。まづ冬木より咲きそむる。窓の梅の北面は。雪封じて寒きにも。異木よりまづ先立てば。梅を切りやそむべき。見じという人こそ憂けれ山里の。折りかけ垣の梅をだに。情なしと惜しみしに。今さら薪になすべしとかねて.思ひきや。櫻を見れば春ごとに。花少し遅ければ。この木や侘ぶると。心を尽し育てしに。今はわれのみ侘びて住む。家櫻切りくべて.火櫻になすぞ悲しき。さて松はさしもげに。枝をため葉をすかして。かかりあれと植え置きし。そのかい今は嵐吹く。松はもとより煙にて。薪となるも理や.切りくべて今ぞみ垣守。衛士の焚く火はおためなり.よく寄りてあたり.給えや。

 

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