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藤戸(ふじと)

【分類】四番目物(雑能)

【作者】不詳  

【主人公】前シテ:漁師の母、後シテ:漁師の亡霊

【あらすじ】(仕舞の部分は下線部です。)  

源平合戦の時、備前国(岡山県)藤戸の合戦で、先陣の功のあった佐々木盛綱は、恩賞によりその辺りの土地を賜わり、新領主としてお国入りします。そして、まず領民の声を聞くべく、訴えのある者は申し出るように、従者に触れさせます。すると、一人の老婆がやって来て、罪もない我が子が、盛綱に殺された恨みを述べます。盛綱は一度は否定しますが、老婆の激しい追及と嘆きに、隠し切れず、去年3月の藤戸の合戦の折、手柄を立てようと、土地の漁師に浅瀬を聞き出しますが、他の者にも同じように教えられることを恐れて、その男を殺したことを告白します。そして、その時の様子を語り、その男を沈めた場所を話します。老婆は悲しみを新たにし、親子の情を述べ、自分も殺してほしいと詰め寄ります。盛綱は前非を悔いて、老婆を慰め、下人に命じて自宅まで送らせます。

<中入>

盛綱は早速に漁師を弔うべく、法要を行うことや一七日の間殺生禁断の由を指示し、自らも読経します。すると漁師の亡霊が現れ、盛綱は恩賞を賜わり、そのもととなった自分は殺された理不尽を責め、身の不運を嘆きます。そして、殺された時の有様を再現して見せ、悪龍となって恨みを晴らそうと思ったが、意外にも回向を受けたので成仏の身になったと告げ、消え去ります。

【詞章】 (仕舞の部分の抜粋です。)

おん喜びも我故なれば。いかなる恩をも。給ぶべきに。思いのほかに一命を。召されし事は馬にて。海を渡すよりは。これぞ稀代の例なる。さるにても忘れがたや。あれなる。浮き洲の岩の上に。我を連れて行く波の。氷のごとくなる.刀を抜いて。胸のあたりを。刺し通し刺し通さるれば肝魂も、きえきえとなる所を。そのまま海に.押し入れられて。千尋の底に.沈みしに。おりふし引く汐に。おりふし引く汐に。引かれて行く波の.浮きぬ沈みぬ埋れ木の.岩の。はざまに。流れかかって。藤戸の水底の。悪竜の水神となって恨み為さんと思いに。思わざるに御弔らいの。御法のみ舟に乗りをえて。すなわち弘誓の舟に浮かめば。水馴竿。さし引きて行く程に。生死の海を渡り。願いのごとくにやすやすと。彼の岸に。至り至りて.彼の岸に.至り至りて。成仏得脱の身となりぬ.成仏の身とぞ.なりにける。

 

 

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