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富士太鼓(ふじだいこ)
【分類】四番目物(狂女物)
【作者】不詳
【主人公】シテ:富士の妻
【あらすじ】(仕舞の部分は下線部です。)
萩原の院(花園天皇)の時代に、宮中での七日の管弦の時に天王寺から浅間という太鼓の楽人が召されました。しかし、住吉の太鼓の楽人、富士もまたその役を望んで都に上ります。管弦の役は浅間に決まりましたが、浅間は富士の差し出た振る舞いを憎み、殺害してしまいます。そのような事があったとは露とも知らない富士の妻は、夫の帰りが遅いのを案じ、子を伴って都に上り、尋ねます。そして、初めて富士が討たれたのを知り、その形見の装束を渡されますが、悲嘆のあまり一時は心も狂わんばかりとなり、見るも哀れな姿となってしまいます。妻は、夫の出立前に止めたことを語り、このように夫が果てたのもあの太鼓のゆえだとして、打って怨みを晴らすべしと子と共に、太鼓を敵と見てこれに打ちかかります。そうするうちに妻は、夫の幽霊が乗り移ったかのように、持っている撥を剣と定めて、太鼓を敵と見て、怒りの炎のように太鼓を打ちます。そして、その後、悲しみの楽を奏し、夫の形見を持って、泣く泣く故郷の住吉に帰って行きます。
【詞章】(仕舞の部分の抜粋です。)
持ちたる撥をば剣と定め。持ちたる撥をば剣と定め。瞋恚の焔は太鼓の烽火と。天にあがれば雲の上人。真の富士おろしに。絶えずもまれて裾野の桜。四方へ.ばっと散るかと見えて。花衣さす手も引く手も。伶人の舞なれば。太鼓の役はもとより聞こゆる。名の下むなしからず。たぐいなや懐かしや。げにや女人の悪心の。煩悩の雲晴れて五常樂を打ちたまえ。修羅の太鼓は打ちやみぬ。この君のおん命千秋樂を打とうよ。さてまた千代や万代と。民も栄えて安穏に。太平樂を打とうよ。日もすでに傾きぬ。日もすでに傾きぬ。山の端を眺めやりて。招き返す舞の手の。嬉しや今こそは思う敵は討ちたれ。打たれて音をや出だすらん.われには晴るる胸の煙。富士が恨みを晴らせば。涙こそうえなかりけれ。これまでなりや人人よ。暇申してさらばと。伶人の姿鳥兜。みな脱ぎ捨ててわが心。乱れ髪乱れ笠。思いはいつか忘れんと。また立ち帰り太鼓こそ。思えば夫の形見なれと。見おきてぞ帰りける.あと見おきてぞ.帰りける。