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江口(えぐち)

【分類】三番目物(鬘物)

【作者】観阿弥

【登場人物】前シテ:里の女、後シテ:江口の君

 【あらすじ】(仕舞〔クセ〕の部分は下線部です。)

諸国一見の旅の僧が、津の国(大阪府)天王寺へ参ろうとして、その途中、江口の里に着いたので、土地の人に尋ねて、江口の君の旧跡を教わります。そこで昔、西行法師がここで宿を求めたが、遊女に断られ、「世の中を いとふまでこそ かたからめ 仮の宿りを 惜しむ者かな」という歌を詠んだことを思い出し、それを口ずさみます。すると、いずこからともなく一人の女が現れ、それは断ったのではなく、出家の身を思って遠慮したのだと説明し、あなたも僧侶の身として、そうした俗世の事に心を留めない方が良いと言います。僧が女の名を尋ねると、江口の君の幽霊であると明かして、たそがれの川辺に消え失せます。

 <中入>

旅僧は、先程の江口の里の男から、この里の遊女が、普賢菩薩の化現であったという話を聞き、奇特の思いに、夜もすがら読経していると、月澄みわたる川面に、江口の君や遊女たちが舟遊びする光景が見えてきます。そして、彼女たちはその身の境涯を語り、そのはかなさを嘆くと共に、この世の無常を述べます。そしてさらに舞を舞い、この世への執着を捨てれば迷いは生じないと仏教の奥義を説き、やがてその姿は普賢菩薩と変じ、舟が白象となると、それに乗って、西の空へと消えてゆきます。

 

 【詞章】(仕舞〔クセ〕の部分の抜粋です。) 

紅花の春のあした。紅錦繍の山.装おいをなすと見えしも。夕べの風に誘われ黄葉の秋の夕べ。黄纐纈の林。色を含むといえども.朝の霜にうつろう。松風羅月に.言葉を交わす賓客も。去つて来たることもなく。翠帳紅閨に。枕を並べし妹背も.いつの間にかは隔つらん。およそ心なき草木。情ある人倫。いずれ哀れをのがるべき.かくは思い知りながら。ある時は色に染み.貪着の思い浅さからず。またある時は声を聞き.愛執の心いと深き.心に思い口に言う.妄染の縁となるものを。げにや皆人は.六塵の境に迷い.六根の罪を作ることも。見る事聞く事に。迷う心なるべし。

 

 

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