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竹生島(ちくぶしま)  

【分類】初番目物 (脇能)

【作者】金春禅竹  

【登場人物】 

登場人物

装束

シテ(前)

老翁

三光尉

襟(浅葱)。尉髪。着附、小格子。水衣(肩上げ)。腰帯。尉扇。櫂棹。

シテ(後)

竜神

黒髭

襟(紺)。龍台。赤頭。色鉢巻。着附、厚板。法被半切。腰帯。打杖。玉盆。

ツレ(前)

小面

襟(赤)。鬘。鬘帯縫箔。唐織。釣竿。

ツレ(後)

辨財天

小面

天冠。薄垂。白鉢巻。鬘。鬘帯。舞衣。色大口。腰帯。扇。

ワキ

大臣

大臣烏帽子。調度掛。着附、厚板。狩衣。大口。腰帯。白骨扇。

ワキツレ

臣下二人

ワキと同装(狩衣は赤地)。

【作り物】社壇、舟

【あらすじ】(舞囃子の部分は下線部です。仕舞の部分は斜体の部分です。)

延喜帝(醍醐天皇)に仕える朝臣が、竹生島明神に参詣を志し、琵琶湖畔までやって来ます。丁度、老人が若い女をともなって釣舟を出しているので、それに、声をかけて便船をたのみます。老人は快く彼を舟に乗せ、のどかな浦々の春景色を楽しみながら、竹生島に向かいます。竹生島に到着すると、老人は朝臣を神前に案内します。朝臣は、つれの女も一緒に来るので、この島は女人禁制と聞いているがと、不審がると、老人と女は、弁才天は女性の神であるから、女人を分け隔てはしないと、こもごもこの島の明神の由来を語ります。やがて二人の者は、実は人間ではないといって、若い女は社殿の扉の内に入り、老人は波間にその姿を消します。

<中入>

そのあと、弁才天の社人が出て、朝臣に宝物を見せます。そうしているうちに、社殿が鳴動し、光輝き、音楽も聞えたと思うと弁才天が出現し、舞を舞います。続いて湖上が波立つと見るや、龍神が水中より現れて、朝臣に金銀珠玉の玉を捧げ、激しい舞を見せます。そして、弁才天と龍神とは仏が衆生を救うための二つの形であるといい、国土鎮護を約束し、弁才天は再び社殿に入り、龍神は湖水へと飛んで入ります。

【詞章】(舞囃子の部分の抜粋です。仕舞の部分は下線部です。)  

ワキ、ワキツレ「〔次第〕竹に生るる鴬の。竹に生るる鴬の.竹生島もうで急がん。

ワキ「そもそも是は延喜の聖主に仕え奉る臣下なり。さても江州竹生島の明神は。霊神にてござ候間。此度君におん暇をもうし。只今竹生島に参詣仕り候。

ワキ、ワキツレ「四の宮や河原の流れ.末早き。

ワキツレ「河原の流れ末はやき。

ワキ、ワキツレ「名もはしり井の水の月.くもらぬみ代に.おうさかの。関の宮居をふしおがみ。山越ちかき志賀の里。鳰の浦にもつきにけり。鳰の浦にも.つきにけり。

ワキ「舟はあれども釣舟に乗り。浦浦を眺みょうずるにて候。

シテ「〔一セイ〕面白や頃は弥生のなかばなれば。波も静に海のおも。

ツレ「霞わたれる朝ぼらけ。

シテ、ツレ「のどかに通う舟のみち。うきわざとなき。心かな。

シテ「〔サシコエ〕是はこの浦里に住み馴れて。明暮通ううろくずの。

シテ、ツレ「数をつくして身ひとつを。助けやするとわび人の。ひまも波間に明暮てくれて。世をわたるこそ.ものうけれ。

〔下歌〕よしよし同じわざながら.世にこえたりな.この海の。

〔上歌〕名所多き.かずかずに。

ツレ「名所多きかずかずに。

シテ、ツレ「浦山かけて眺むれば。志賀の都花ぞの。昔ながらの.山桜。眞野の入江の舟よばい。いざ漕ぎよせてこととわん.いざ漕ぎよせて.こととわん。

ワキ「いかにあれなる舟近うよせ候え。

シテ「是は山田矢走のわたし舟にてもなし。ご覧候え釣舟にて候。

ワキ「われらも釣舟とは見てあれども便船すべし。是は竹生島参詣の者なり。ちかいの舟に乗るべきなり。

シテ「げにこの島は霊地にて。あゆみを運び給う人を。いなと申さば御心にもちがい。又は神慮もはかりがたし。さらばお舟を参らせん。

ワキ「嬉しやこれこそ迎いの船。法の力と覚えたり。

ツレ「今日はことさらのどかにて。心にかかる風もなし。

シテ「名こそさざなみや。

地謡「志賀の浦におたちあるは。都人かいたわしや。お船にめされて.浦浦を眺め.給えや。所は海の上。所は海の上。國は近江の江に近き。山山のはるなれや.花はさながら白雪の。ふるか残るか時しらぬ。山は都の富士なれや。なほさえかえる春の日に。比良の根おろし吹くとても。沖漕ぐ舟はよもつきじ。旅のならいの思わずも。雲井のよそに見し人も。おなじ舟になれごろも.うらを隔ててゆく程に。竹生島も見えたりや。

シテ「緑樹かげしずんで。

地謡「魚木にのぼるけしきあり。月海上にうかんではうさぎも浪をはしるか面白の浦の.けしきや。

シテ「のうのう舟がついて候神前に御参り候え。

ワキ「心得申して候。いかに申し候。この島へは女人禁制のよし承り及びて候が。あれなる女性は何とて参られて候ぞ。

シテ「それはただ知らぬ人の申し事にて候べしその故は。これ則ち九生如来三大極意なれば。ことさら女人こそ参り候べけれ。

ツレ「のうそれまでも.なきものを。

地謡「辨財天は.女体にて。辨財天は女体にて。その神徳もあらたなる.天女と現じおわしませば。女人とて隔なし.ただ知らぬ人の.言葉なり。

〔クセ〕

かかる悲願をおこして。正覚年久し。獅子通王のいにしえより。利生さらにおこたらず。

ツレ「げにげにかほど疑いの。

地謡「荒磯島の松蔭をたよりによするあま小舟。われは人間にあらずとて。社だんの扉をおしひらき.ご殿にいらせ給いければ。翁も水中に。入るかとみしが白波の.たち帰り我はこの海の。あるじぞといいすてて.又浪にいらせ.給いけり。

<中入>

地謡「ご殿しきりに鳴動して。日月光り雲晴れて。山の端いずる如くにて。顕れ給う。有がたさよ。

後ヅレ「我はこれこの島に住んで國土を守る。辨財天とは.我ことなり。

地謡「その時虚空に音樂きこえ。その時虚空に音樂聞え。花ふりくだる。春の夜の。月にかかやく乙女のたもと。かえすがえすも。おもしろや。

<天女舞>

地謡「夜遊の舞樂も時すぎて。夜遊の舞樂も時すぎて。月もかかやく海づらに。波風しきりに鳴動して。下界の龍神。顕れたり。

<早笛>

地謡「龍神湖上に出現して。龍神湖上に出現して。光りもかかやく金銀珠玉を.かのまれ人に。ささぐるけしき。有難かりける。奇特かな。

<働>

シテ「元より衆生.さいどのちかい。

地謡「元より衆生済度のちかい。さまざまなれば。或は天女のかたちを現じ。有縁の衆生の願をかなえ。又は下界の龍神となつて。國土を守る。ちかいをあらわし天女は宮中に入らせ給えば.龍神は湖水の.上にかけつて。波をけたて。水をかえして天地にむらがる大蛇のかたち。天地にむらがる大蛇のかたちは。龍宮にとんでぞ。入りにける。

 

 

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