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敦盛あつもり

【分類】二番目物(修羅物)

【作者】世阿弥

【主人公】前シテ:草刈男、後シテ:平敦盛の霊

【あらすじ】仕舞〔クセ〕の部分は下線部、仕舞〔キリ〕の部分は斜体の部分です。

一ノ谷の合戦で、当時十六歳であった平家の公達平敦盛を討ち取った熊谷直実は、あまりの痛ましさに、無常を感じ、武士を捨てて出家して蓮生と名乗ります。彼は敦盛の菩提を弔うため、再びかつての戦場、摂津国(兵庫県)一ノ谷を訪れます。すると、笛の音が聞こえ、数人の草刈男がやって来ます。その中の一人と笛の話をしているうちに、他の男達は立ち去りますが、その男だけが残っているので、蓮生が不審に思って尋ねると、自分が敦盛の霊であることをほのめかして消え失せます。

<中入>

蓮生は、散策にやって来た須磨の裏の男に、一ノ谷の合戦、敦盛の最後について語ってもらいます。そして、自分は熊谷次郎直実であり、今は出家して敦盛の菩提を弔っているのだと明かします。そう聞いて、土地の男は感心し、敦盛の回向をするように言って立ち去ります。蓮生が夜もすがら念仏を唱え、その霊を弔っていると、武者姿の敦盛が現れ、平家一門の栄枯盛衰を語り、笛を吹き、今様を謡った最後の宴を懐かしんで舞います。続いて敦盛は討死の様子を見せ、その敵に巡り会ったので、仇を討とうとしますが、後生を弔っている今の蓮生はもはや敵ではないと、回向を頼んで消え去ります。

【詞章】(仕舞の部分の抜粋です。)

〔クセ〕  

然るに平家。世をとって二十餘年。まことに一昔の。過るは夢のうちなれや。寿永の秋の葉の。四方の嵐にさそわれ。散りぢりになる一葉の。舟に浮き波に臥して夢にだにも帰らず。籠鳥の雲を恋い。帰雁行を乱るなる。空定めなき旅衣。日も重なりて年なみの。立ち帰る春の頃.この一の谷にこもりて。しばしはここに須磨の浦。うしろの山風吹き落ちて。野も冴えかえる海際の。船の夜となく昼となき。千鳥の声もわが袖も波にしおるる磯枕。海人の苫屋に共寝して。須磨人にのみ磯馴れ松の。立つるやうす煙。柴というもの折り敷きて。思いを須磨の山里の。かかる所に住まいして。須磨人となりはつる.一門の果ぞ.悲しき。

〔クセ〕  

さる程に。御船を始めて。一門の皆みな。我もわれもと舟に浮かめば。乗りおくれじと。汀にうち寄れば。御座船も兵船もはるかにのび給う。せん方なみに駒を控え。あきれ果てたる。有様かな。かかりける所に。かかりける所に。後より。熊谷の次郎直実.のがさじと追かけたり。敦盛も。馬引っかえして。波の打物ぬいて。二打ち三打ちは打つとぞ見えしが馬の上にて。引つ組んで波打ち際に。落ちかさなつてついに。打たれて失せし身の。因果はめぐり合いたり.敵はこれぞと打たんとするに。仇をば恩にて。法師の念仏してとむらはるれば。ついには誰も生まるべし。同じ蓮の蓮生法師。敵にてはなかりけり.あととむらいてたび給え.あととむらいてたびたまえ。

 

 

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