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芦刈あしかり

【分類】四番目物 (雑能)

【作者】世阿弥(古能を改作)

【主人公】シテ:日下左衛門

【あらすじ】(『笠ノ段』の部分は斜体です。仕舞〔クセ〕の部分は上線部です。仕舞〔キリ〕の部分は下線部です。)  

津の国の日下の里(大阪府東大阪市)の住人の左衛門は貧乏のすえ、心ならずも妻を離縁します。妻は、京の都に上って、さる高貴な人の若君の乳母となり、生活も安定したので、従者を伴って難波の浦へ下り、夫の行方を尋ねます。在所の者に聞いても、以前のところにはいないということで、途方にくれますが、しばらくの間、付近に逗留して夫を捜すことにします。一方、左衛門は落ちぶれて、芦を刈りそれを売り歩く男になっています。しかし、彼はその身の不遇を嘆くでも怨むでもなく、すべてを運命と割り切って、時に興じ物に戯れ、自分の生業に満足しています。そして、ある日妻の一行とも知らず、面白く囃しながら芦を売り、問われるままに、昔、仁徳天皇の皇居があった御津の浜の由来を語り、笠尽しの舞をまって見せます。いよいよ買ってもらった芦を渡す段になって、思いがけず妻の姿を見つけ、さすがに今の身の上を恥じて、近くの小屋に身を隠します。後を追おうとする従者をとどめ、妻は自分で夫に近づき、やさしく呼びかけます。夫婦は和歌を詠み交わして、心もうちとけ、再びめでたく結ばれます。装束も改めた左衛門は従者のすすめで、和歌の徳を讃え、祝儀の舞をまい、夫婦うち揃って京の都へ帰ってゆきます。

【詞章】(『笠ノ段』と仕舞〔クセ〕、仕舞〔キリ〕の部分の抜粋です。)

〔笠ノ段〕

あれ御覧ぜよ御津の浜に。網子ととのうる網船の。えいやえいやと寄せ来たるぞや。名にし負う難波津の。名にし負う難波津の。歌にも大宮の。内まで聞こゆ網引きすと。網子ととのうる。海士の呼び声と詠みおける。古歌をも引く網の。目の前に見えたる有様.あれ御覧ぜよや人人。おもしろや心あらん。おもしろや心あらん。人に見せばや津の国の。難波わたりの春の景色。おぼろ舟こがれ来る。沖のかもめ磯千鳥。連れだちて友呼ぶや。海士の小舟なるらん。雨に着る。田簑の島もあるなれば。露も真菅の。笠はなどか無からん。難波津の春なれや。名に負う梅の花笠。縫うちょう鳥の翼には。鵲も有明の。月の笠に袖さすは。天つ乙女の衣笠。それは乙女。これはまた。なにわ女の。難波女の。かずく袖笠肘笠の。雨の芦辺の。みだるるかたおなみ。あなたへざらり。こなたへざらり。ざらりざらり.ざらざらざっと。風の上げたる。古簾。つれづれもなき心.おもしろや。

〔クセ〕

難波津に。咲くやこの花冬ごもり。今は春べと咲くや。この花と栄えたまいける。仁徳天皇と。聞こえさせたまいしは。難波の皇子のおんことまた浅香山の言の葉は。采女の。杯取りあえぬ。恨みを述べし故とかや。この二歌は今までの。歌の父母なる故に。代々にあまねき花色の。言の葉草の種とりて。われらごときの。手習う始めなるべし。しかれば目に見えぬ。鬼神をもやわらげ。武士の心慰むる。夫婦の情知ることも今身の上に知られたり。津の国の。難波の春は夢なれや。芦の枯葉に風わたる。波の立ち居の隙とても。浅かるべしやわだずみの。浜の真砂は。よみ尽くし尽くすとも。この道は尽きせめや。ただもてあそべ名にし負う。難波の恨みうち忘れて。ありし契りに帰り逢う。縁こそ嬉し.かりけれ。

〔キリ〕

浮世忘るる難波江の。浮世忘るる難波江の。芦の若葉を越ゆる白浪も。月も残り。花もさかりに津の国の。こやの住まいの冬ごもり。今は春べの都の空に。誘われわたるや大伴の。御津の浦わの見つつを契りに。帰る道こそ嬉しけれ。

 

 

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