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葵上(あおいのうえ)

【分類】四番目物 (雑能)

【作者】世阿弥(古能を改作)

【主人公】前シテ:六条御息所の生霊(面・泥眼)、後シテ:六条御息所の怨霊(面・般若)

【あらすじ】(『枕ノ段』の部分は下線部第62回名古屋春栄会の独吟の部分は上線部です。)

左大臣のご息女で、光源氏の正妻である葵上が物怪に悩まされ寝込んでいるので、貴僧や高僧を召して加持祈祷を行ったり、さまざまな治療を施してみるが、いっこうに効き目がなく回復しません。そこで朱雀院に仕える延臣が梓弓によって亡霊を呼び寄せる呪法の上手である照日ノ巫女に命じて、怨霊の正体を占わせます。すると梓の弓の音に引かれて、光源氏の愛人であった六条御息所の生霊が破れ車にのって現れます。そして、光源氏の愛を失った恨みを綿々と述べ、葵上の枕元に立って、責め苛み、幽界へ連れ去ろうとします。

<中入>

臣下はただならぬ様子に、下人を呼び、横川ノ小聖という行者のもとへ使いを走らせます。急ぎ駆けつけた行者が、早速に祈祷を始めると、六条御息所の怨霊が、鬼女の姿で再び現れ、行者を追い返そうとして激しく争います。しかし、その法力には敵わず、ついに祈り伏せられ、悪鬼さながらの怨霊も心を成仏します

【詞章】(『枕ノ段』の部分と第62回名古屋春栄会の独吟の部分の抜粋です。)

枕ノ段〕

 

シテ「今の恨みはありし報い。

ツレ「嗔恚のほむらは。

シテ「身をこがす。

ツレ「思い知らずや。

シテ「思い知れ。

地謡「恨めしの心や。恨めしの心や。人の恨みの深くして。憂き音に泣かせ給うとも。生きてこの世にましまさば。水くらき沢辺の蛍の影よりも。光る君とぞ契らん。

シテ「わらわは蓬生の。

地謡「もとあらざりし身となりて。葉末の露と消えもせば。それさえ殊に恨めしや。夢にだにかえらぬものを我が契り。昔語になりぬれば。なおも思いは増鏡。その面影も恥かしや。枕に立てるやれ車.うち乗せ隠れゆこうよ.うち乗せ隠れゆこうよ。

 

〔第62回名古屋春栄会の独吟の部分〕

 

行者は加持に参らんと。役の行者の跡をつぎ。胎金両部の峰をわけ。七宝の露をはらいし篠懸に。不浄をへだつる忍辱の袈裟。赤木の数珠のいらたかを。さらりさらりと押しもんで。一祈こそ.祈つたれ。東方に降三世明王。なまくさまんだばさらだ。いかに行者早や帰りたまえ。帰らでふかく.し給うなよ。たとい如何なる悪霊なりとも。行者の法力つくべきかと。重ねて数珠を.おしもんで。東方に降三世明王。東方に降三世明王。南方軍荼利夜叉。西方大威徳明王。北方金剛。夜叉明王。中央大聖。不動明王。なまくさまんだばさらだ。せんだまかろしやな。そわたやうんたらたかんまん。聴我説者得大智恵。智我身者即身成佛。やらやら恐ろしの.般若声や。これまでぞ怨霊.この後又も来たるまじ。読誦の声を聞く時は。悪鬼心をやわらげ。忍辱慈悲の姿にて。菩薩もここに来現す。成佛得脱の。身となりゆくぞありがたき。身となりゆくぞ.ありがたき。

 

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